2021.08.17
J-Stream Equipmedia
動画・ライブ配信
動画内製化
スマホカメラの高画質化や編集アプリの普及などにより、専門的な動画制作の知識がなくても、誰でも手軽に動画を作れる時代になりました。従来は外部に委託していたビジネス用途の動画制作を社内で実施(内製)している、もしくは内製化を検討しているという企業のご担当者も多いのではないでしょうか。そんな方に知っておいていただきたいのが動画にまつわる権利や許諾です。
権利・許諾は画像や記事(文章)の無断転用などと同様に、動画でも「知りませんでした」では済まされない重要な問題です。そこで今回は、動画を内製する時に知っておきたい権利・許諾について、Q&A形式で解説していきます。
※本稿の内容は、全ての動画に該当するとは限りません。個別具体的な適法性等については法律の専門家にご相談ください。
《 目次 》
著作権は著作権法という法律で保護されており、本来は著作物を実際に創作した個人に帰属します。しかし例外もあり、その一つが会社の業務として制作した場合です。法人等の組織が著作者となる著作物は職務著作(または法人著作)と呼ばれ、著作権法の第十五条で以下のように規定されています。
『(職務上作成する著作物の著作者)
第十五条 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。』
Q1のケースでいえば、業務として制作した動画は基本的に会社が著作権を持ちますが、『その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り』とある通り、社内規程や規則、入社時・入社後の契約などで職務著作に関する取り決めがあれば、それに従って判断をすることになります。
肖像権は、過去の裁判例により認められている権利であり、従業員にも肖像権があります。在籍中の従業員には気軽に出演を依頼しがちですが、事前にその従業員から許諾を得る必要があります。
動画に出演した従業員が退職する際には、退職後の動画利用について、その従業員の意向を確認することが望ましいです。その際に明確な許諾が得られない場合、後日の紛争予防のため出演状況に応じて動画の利用中止を含めた対応を検討してください。以下は出演状況別の判断の例です。
従業員の出演状況 | 対応策 |
---|---|
動画全体に出演 | 動画の利用を中止する。 同様の動画が必要な場合、別の従業員で全体を撮影しなおすか、退職後も使えるよう許諾を得る。 |
動画の一部に出演 | 動画の利用を中止する、もしくは該当部分を修正して継続利用する、または退職後も使えるよう許諾を得る。 |
退職者がその他大勢として映っている | そのままでも継続して利用可能な場合もあるため、該当箇所の具体的な内容により個別に判断。 (継続して利用可能な例:式典記録動画などで部分的に映りこんでいる場合 修正が必要な例:多数表彰されている中の一人であるが、個人が特定できる場合) |
「手だけ」など、身体の一部分のみで本人を特定できないもの | 継続して利用可能。 |
動画の修正方法は、「該当部分をカットする」「別の従業員で再度撮影しシーンを差し替える」「編集でぼかすなどの方法で該当従業員のみを消す」といったいくつかパターンがあります。動画の内容や用途に応じて方法を選びましょう。
ただし、必ずしも従業員の退職日に合わせて動画の削除や修正を行えるとは限りません。そこで出演の許諾を得る際に、「動画の更新や削除対応が完了するまでは、退職後もしばらく掲載される場合がある」ということも記載しておくとよいでしょう。
撮影したい公園の管理者に事前に確認してください。公園によっては使用料が発生する場合や撮影が禁止されている場合もあります。東京都管理の公園の場合、東京ロケーションボックスというWebサイトにカテゴリー別のリンクがまとめてあります。
道路には公道と私道があります。公道には高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道があり、これらについては所轄の警察に道路使用許可を申請する必要があります。詳しくは、警察庁ホームページ(道路使用許可)で解説されています。
商業施設の敷地内での撮影の場合は、施設の管理会社へ申請をしてください。駅での撮影は各鉄道会社への申請となります。
いずれの場合も、時間的な余裕を持って準備をした方がいいでしょう。申請時に企画書やシナリオ、画コンテの提出を求められることもありますので、申請手続き方法や必要な期間だけでなく準備物についても事前に確認しましょう。
また、道路使用許可や施設の撮影許可を取っていたとしても、動画に他の建物や看板が映る可能性がある場合、隣接するビルや商業施設などにも申請が必要な場合もあります。
屋外での撮影は、撮影場所以外の映り込み(写り込み)に対しても様々な注意が必要です。代表的なものを記載します。
人通りのある場所での撮影 | インタビューの場合、その対象者はもちろん、それ以外の人物がクローズアップで映るのであれば、その人物すべてに対し許可を取る必要があります。「容貌、姿態」は個人を特定できる「個人情報」の一部ですので「あとで顔をぼかせばOK」と軽く考えず、撮影すること自体がNGと考えてください。(報道機関等は個人情報保護法第76条で例外とされています) 「撮影した風景の一部としてたまたま映りこんだ」「不特定多数の姿を全体的に映した」などの場合は例外となりますが、やはり映された側の気持ちに配慮するのであれば、個人を特定できないよう撮影するのがよいでしょう。[個人を特定できない撮影方法] ・人にピントを合わさずぼかして撮影する(顔が判別できないレベルで) ・不特定多数の足元や背後のみ映るようなアングルで撮影する |
車通りのある場所での撮影 | 車のナンバープレートも場合によっては個人を特定できる情報ですので、「撮影しない」「番号が識別できないレベルで撮影する」などの配慮が必要です。路線バスなどの公共交通機関のナンバープレートは個人情報には当たりませんが、広告看板に電話番号が書かれている場合は映らないように配慮したほうがよいでしょう。 |
撮影地周辺の建物 | 建物には意匠権や著作権などの知的財産権が発生するものとしないものがあります。例えば、各自治体が所有する公共の建物には、意匠権・著作権は発生しません。一方、私有の建物、建築物のデザイン、公共の場に展示されている美術作品などは、著作権等の知的財産権が発生する場合もありますので、撮影前に管理者に確認しましょう。[例] ・東京タワーが主体的に映った動画を使用する場合は、日本電波塔株式会社の承諾が必要(風景の一部として映りこんでいる場合はOK) ・屋外に設置された彫刻を撮影して動画に使用する際には許可不要(ただし、その彫刻を主体とした動画の販売が目的であった場合、撮影すること自体が違法) ・公共物とはいえ、神社仏閣のような宗教的な建築物は、宗教法人等の宗教的人格権が及ぶ場合もあるので、不必要な演出は留意が必要(破壊やイメージを貶める描写などはトラブルの原因に) |
映りこみ(写りこみ)については、令和2年著作権法改正により権利制限規定の対象範囲の拡大が図られましたが、対象物の状態(全体に占める面積などの割合、画質・音質)や用途(意図的などうかの目的を含みます)が定められているため注意が必要です。文化庁のHPでも解説されていますので参考にしてください。
工業製品は、美術的要素が備わらない限り著作権の対象にはなりませんが、ブランドロゴや企業名などには商標権や意匠権があります。そのため、例えば「自社のアプリを紹介するためにiPhoneを使う(映す)」こと自体は問題ありませんが、ロゴは映らないようにするか消すといった配慮が必要なケースがあります。
ロゴを消す処理は編集工程でもできますが、静止画と違い動画は1秒間に多数のコマがあります。動きがはげしい動画では修正作業が大きな負担になりますので、どうしても映りそうな場合には予めテープ等でロゴを隠して撮影するのもひとつの方法です。
また、競合製品だけでなく、どのような製品でもブランドや企業イメージを貶めるような使い方はNGとなります。また、自社製品の背景に有名ブランドの製品を配置するなど、有名ブランドの名声にタダ乗りするような動画や、他社製品を自社製品のように誤解させる動画もNGです。
レンタル素材(使用料を支払って利用する、予め用意された動画素材や画像素材・音声素材)を提供するストックフォトやレンタルポジ(レンポジ)などと呼ばれるサービスがありますが、素材によって使用許諾の獲得状況が異なるため、サービス利用時には注意が必要です。
例えば写真で「モデルリリース取得済み」であれば、撮影したモデルの肖像権使用許諾同意書が取れている素材であることがわかりますが、モデルリリースについて特に記載がない素材では、取得の有無について確認をしなければなりません。また、モデルリリース以外に建物などの使用許諾同意書(プロパティリリース)が必要な素材の場合、モデルリリースはOKでもプロパティリリースはNGといったこともあります。さらに、素材によっては用途・範囲が限定されているものもあります。
このように、ロイヤリティフリー素材だからといって一概に許諾関連がクリアになっていると考えるのは危険です。
最近では無料で使える素材サイトもありますが「商用利用が不可」「素材提供者の信頼性が低い」など利用時に注意が必要なサイトもあります。各サイトの利用規約等を確認し、不明な点がある場合は事前に運営者に問い合わせてください。
ロイヤリティフリーなどの条件で購入した音楽や無料で使える楽曲以外は、利用に際して著作者やレコード会社からの許諾を得るようにしましょう。音楽制作には数多くの人が携わっています。著作者としては「作詞家、作曲家」ですが、著作者隣接権として「歌手や演奏家」「レコード会社など」も権利者として該当します。
JASRACのページでは、動画投稿(共有)サービスでの音楽利用を例に、許諾手続の進め方が紹介されていますので参考になるでしょう。
社員のみが視聴する動画であっても社外向けと同様の基準で権利・許諾をチェックしてください。
ただし、BGMについては社内向けと社外向けで若干異なる部分があり、JASRACが管理する楽曲については「事務所、工場等での主として従業員のみを対象とした利用」に限り、営利目的でも“当分の間”使用料が免除されています。しかし、世の中の楽曲の全てがJASRACに管理されているわけではありません。また「当分の間」とあるように、ルールが変わることもありますので注意して使用してください。
また、社内用の動画では、社外向け以上に気を付けなければいけないことがあります。それはセキュリティです。社内用動画の場合、動画内に機密情報を含む場合もあると思います。用途に適した動画配信方法の選択と動画管理を行いましょう。機密情報を含む動画配信に関するポイントを知りたい方は下記を参考になさってください。
以上、動画を内製する際に知っておきたい権利・許諾について解説しました。注意点は多いですが、動画は分かりやすさ、記憶定着率の高さ、感情に訴えかける力などに優れた魅力的なメディアです。ぜひ適切に権利・許諾を守りながら、動画制作にもチャレンジしてみてください。
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