2017.07.19
制作・開発
例えば料理で「食材は同じなのに、おいしさがまったく違う」そんな経験をしたことはありませんか?
デザインでも同じようなことが起こります。文字情報や写真、レイアウトが同じでも印象がまったく違い、訪れた人に良い印象を与える場合や、逆に素人っぽさや「この会社(サービス)大丈夫かな?」と不安を与える場合もあります。どうして差が出るのでしょうか。
今回は、デザインの重要要素のである「文字」に焦点をあて、印象に差が出る使い方をデザイン例も交えながら解説していきます。
デザインの重要な要素である「文字」。その文字の表示に欠かせないのが「フォント」です。フォントとは「特徴ある文字デザインのデータ」のことを指す言葉です。
例えば、全国紙の記事部分では各紙独自のフォントを使用しており、2紙を並べると文字の特長が違うことがお分かりいただけると思います。地方紙は「イワタUD新聞書体」というフォントを使用していることが多いようです。
空港の案内看板もフォントが活躍する場です。パリのシャルル・ド・ゴール空港の案内看板には「Frutiger(フルティガー)」というフォントが使われています。Frutigerは遠くからでも読みやすいという特徴があり、他の空港や日本の鉄道の一部、そして印刷物でも使われています。
このようにフォントは、媒体の目的や機能に応じて選択されると共に、読み手に与える印象を通じてデザイン上の個性を表現するものでもあります。
印象の良し悪しは、このまま内容を読み進めるかどうかの判断にも関わる大切な部分です。フォントの種類選びはもちろんのこと、文字同士の間隔やサイズなど細かな部分に配慮が必要となります。
フォントは、漢字・仮名を含む「和文フォント」と、アルファベットを主体とする「欧文フォント」に大別されます。和文フォントは「明朝体」・「ゴシック体」の2書体が主に使われ、「欧文フォント」は「セリフ」・「サンセリフ」が主流です。
以下では、明朝体・ゴシック体・セリフ・サンセリフの4書体について、主な特徴や、与える印象について簡単に説明します。
明朝体
「楷書体」を元に、活版印刷用に明朝時代に生まれた書体で、「うろこ」とよばれる三角形の飾りが線の右側にあるのが特徴です。また、縦線と横線の太さに加え、線のはじまりや「はね」「はらい」の部分も太さが異なります。「繊細」「上品」「高級」「知的」といったイメージを与えます。教科書を除く書籍類の多くは明朝体が使用されています。
ゴシック体
縦線と横線の太さが均等で、装飾性がないのが特長です。遠くからでも良く見え、屋外看板などに使用されます。長文では明朝体に比べると読みやすさは劣るとされますが、液晶画面などではシンプルなゴシック体の方が表示に適しており使用されています。「モダン」「信頼」「力強さ」といったイメージを与えます。
セリフ
線の先端に飾りのある書体を指します。印刷技術が生まれる前の手書き文字の風合いを表現しており、「伝統」「クラシカル」「格調」といったイメージを与えます。線の先端の飾りに加えて、縦線と横線の太さが異なるのも特徴です。
サンセリフ
線の先端に飾りの無い書体を指します。セリフと違って縦線と横線の太さがほぼ均一で、「シンプル」「新しい」「カジュアル」といったイメージを与えます。
この他にも、イメージをより強調するとともに視線を集める効果のある「ファンシー系」書体や、「行書体」「楷書体」「江戸文字」など筆で書いたような書体など多数あります。
PCに最初からインストールされているフォントには、あまり太さのバリエーションが揃っていませんが、クリエイターがデザインに使用するフォントには様々な太さが揃っています。
太いフォント…力強さ・男性的な印象を与える。ゴシック系のフォントが効果的。元気さにもつながるので、アクティブな女性向けの表現にも。
細いフォント…現代的・都会的・洗練・先進・女性的といった印象を与える。明朝系で細い書体の場合、より女性的な印象を与えることも。
フォントと太さの組み合わせで印象が変わります。どういったフォントを使うのか、どの太さにするか、異なるフォント同士の組み合わせ方など、与えたい印象を考えながら選んでいきます。
通常のソフトウェアでただ入力したままの文字列は、文字と文字の間隔は不均一です。たとえばひらがなやカタカナ、句読点や括弧の直後は、漢字に比べて文字間隔が広くなっています。そのままでは読みにくく、素人っぽい印象を与える原因になります。
文字同士の間隔を細かく調整し揃えることで、安定感が出るとともに、テンポよく読みやすくなります。
一つの文の中で、「てにをは」などの助詞や「円」などの単位を小さくする場合があります。一部を小さくすることで大切な部分が強調され、情報がより頭に入りやすくなります。
意外と見落としがちなのがカギ括弧の太さです。細くすることで、括弧でかこまれた文字が読みやすくなります。
文字のサイズは同じでも、アルファベットとカタカナ部分で水平ラインが揃わない場合があります。こういった場合は、見た目のサイズを優先し揃えます。
その他にも、
・どのくらいの大きさで配置するか
・縦書きか、横書きか
・真直ぐ配置するのか、斜めに配置するのか
なども印象に差が出る要素です。
では、文字情報と写真を固定した条件で、フォントの種類や文字間隔などの調整でどれぐらい印象に差が出るかを3つのデザインで見てみましょう。
ここでは「ヒーローヘッダー」と呼ばれる、Webサイト最上部の大きなビジュアル部分を例にします。Webサイト訪問時に、最初に表示される部分のため、サイトが与える印象に大きく影響します。
ゴシック体の細いフォントを使用し文字間隔を広めにすることで、シャープで都会的な印象になります。文字自体が細いため、文字を読ませつつも背景写真も存分に魅せることができます。
(使用フォント:ヒラギノ角ゴシックW0)
ゴシック体の太いフォントを使用し、文字間隔を詰め気味にレイアウト。文字が真っ先に目に入るとともに、力強さを感じさせます。
(使用フォント:ヒラギノ角ゴシックW6)
明朝体自体の持つ、「繊細」「上品」「高級」「知的」といったイメージと、キャッチコピーの内容が合わさって、信頼や安心を感じさせる、誠実な印象になります。
(使用フォント:ヒラギノ明朝 W3)
今回は比較しやすくするために省きましたが、文字色や縁取りの有無、テクスチャと呼ばれる文字色部分の質感などにこだわることで、より印象に差をつけることができます。
ここからは、ぜひこの機会に見ていただきたい、文字にとことんこだわったWedサイトをご紹介していきます。
ヒーローヘッダーの太めの装飾のないフォントが「信頼」「力強さ」を感じさせます。和文の左右に添えられた細い線があることで、2行の文字と共に長方形を感じさせ、より安定した印象を与えています。このコピーは、ヤンマーが次の100年へ向けて掲げたブランドステートメントです。
ブランドステートメント以外にも、ヒーローヘッダー部分では製品訴求のビジュアルが切り替わりながら表示されていきます。製品訴求コピーの場合、ブランドステートメントの和文より細めのゴシック体を使用しており、「先進」「新しさ」を感じます。
TOPページはもちろん、全体でフォント使用のルールが定義され守られており、文字の使い方から企業や製品の質の高さを感じさせるWedサイトです。
明朝系のフォントが使われた読み込み画面から始まるWedサイトです。真っ白な背景にコーポレートメッセージ「ひとりの商人、無数の使命」が表示され、これから企業人となろうとする学生に責任感や使命感を感じさせます。TOPページでは同メッセージが小さめに配置されていますが、写真背景のシンプルさもあり十分存在感があります。
このWedサイトは本文に明朝体を使用していることも特徴的です。一般的にWebサイトの本文は、装飾性の無さが液晶画面での表示に適しているという理由で、ゴシック体が使用されます。しかし、このWebサイトでは明朝体が与える印象を重要視し、意図して使用しています。
縦書きで実装されたWebサイトです。着物を扱うサイトとして、日本語ならではの縦書きを採用しています。「衣のいのち」の文字からは「凛とした美しさ」「優美さ」「しなやかさ」を感じさせます。
先の事例と同じく、このWebサイトでも本文に明朝体を採用していいます。明朝体はゴシック体より歴史が長く、着物のサイトとしてのあるべき姿を細部までこだわっていることが分かります。縦書きの文字がスクロール方向と一致しているのも、必然的で心地よさを感じさせます。
以上、デザインの重要要素である「文字」に焦点をあて、印象に差が出る使い方をデザイン例も交えながら解説しました。
文字やフォントに注目して、改めてデザインを見るのも面白いと思います。ぜひ、色々ご覧になってみてください。
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